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東京地方裁判所 昭和43年(ワ)14957号 判決

被告 東商信用金庫

理由

一  原告主張の日に、原告名義で、原告主張のような当座預金契約および定期預金契約が、信用金庫である被告との間に、それぞれ締結されたことは当事者間に争いがなく、右事実に《証拠》を考えあわせると、右各預金契約はいずれも真実原告が被告としたものであり、右各預金の預金者は原告であることが明らかであつて、右認定を覆すに足りる証拠はない。

二  《証拠》によれば、右当座預金について、被告は小切手三通(乙第五ないし第七号証)の支払として、昭和四二年一一月一六日、金五〇万円、同月一七日、金三〇万円、同月一八日、金五〇万円を払出したこと、これらはいずれも被告の当座預金係が振出人名下の印影と被告に届出られた原告名義の印影とを現実に照合した上、同一と認めて処理したものであることが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

三  ところで、右小切手三通はいずれも原告が被告から交付を受けた小切手用紙を使用したものであること、右交付小切手用紙について原告から被告に対し紛失等の届出はなんらなかつたこと、右小切手三通の振出人名下の各印影が、被告に届出られた被告名義の印影と同一でないことは当事者間に争いがなく、《証拠》によれば、原告は昭和四二年一一月一六日被告から交付を受けた小切手用紙を同日訴外小島清に渡し同訴外人にこれを保管させたところ、右小切手三通は、いずれも、原告不知の間に、右用紙および訴外野本敏郎において偽造した印章を使用し、原告の振出名義を冒用して作成された偽造の小切手であることが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はないところ、被告は右小切手三通の各印影は届出の印影と肉眼をもつては識別困難な程酷似し、容易にその相異を知ることができなかつたものであるとし、被告主張の特約により、仮にしからずとするも商慣習により前記支払について免責を主張する。

しかし、証人藤野時雄の証言によつて、本件当座取引にあたつて原告の届出印影として被告に差し入れられたものと認められる乙第三、第四号証に顕出されている印影と右小切手三通の振出人名下の各印影を比較対照すると、両者は一見したところではよく似ているということができるけれども、さらにその字画等を個個に比較対照すれば、その相異は明らかであつて、肉眼をもつても、たやすく看取しうるところといわねばならない。したがつて、右両印影の照合にあたり、被告担当者において、右小切手が被告より原告に交付した小切手用紙を使用し、かつ右交付小切手用紙について紛失等の届出がなく、右小切手の印影が一応被告に届出られた原告名義の印影とよく似ているということにただちに安ずることなく、さらに若干の注意を払い、右両印影の比較対照をするならば、肉眼をもつてもその相異をたやすく知りえたものと認めるのが相当であり、この程度の注意は、信用金庫である被告において一般に当然尽すべきところといわねばならない。

そうだとすれば、被告の右免責の主張は、その余にふれるまでもなく、いずれも採用できないといわねばならない。

四  原告主張の日に、原告主張のごとき解約通知が被告に到達したことは当事者間に争いがない。

五  したがつて、被告は原告に対し上記預金合計金一五〇万円および内金二〇万円に対する昭和四二年一一月一六日以降支払済に至るまで年五分五厘の割合による利息ならびに遅延損害金、内金一三〇万円に対する昭和四三年一二月六日以降支払済に至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。

原告は、右当座預金について、昭和四二年一一月一六日以降解約までの間の、年六分の割合による利息を請求するけれども、当座預金は一般に無利息であり、特段な事情はなんら認められないから、右請求は認容の限りでない。

六  以上のとおりであるから、原告の本訴請求は右の限度において正当として認容し、その余は失当として棄却。

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